シリコン半導体技術を用いたマイクロストリップ型検出器は、荷電粒子の高精度な位置測定のために高エネルギー実験では不可欠の装置になっている。現在までに建設された検出器はN型バルクを用いたもので、LHCなどの高放射線レベルでも稼働できるものであったが、さらに高輝度での実験では、センサーの全空乏化電圧の上昇のために作動しなくなる。我々は、システムの耐圧に達した場合は、部分空乏化の状態でも作動させることができるP型バルクを用いたセンサーを開発している。 P型バルクセンサーは、高純度のウェハーが入手しづらいことや、読み出し電極間にP-STOPなどの構造を入れる必要があるため良品率が上がらないなどの問題が生じやすい。先年度までには、実際に、市場で調達できるP型ウェハーを用いてP-STOPの構造や濃度、P-SPRAYの濃度を変え試験センサーを試作し、陽子線や中性子線を約5×10^<15>1-MeV中性子相当/cm^2まで照射することで、センサー性能の評価を行ってきた。今年度は、コバルト線を照射し、低線量での電極分離など表面性能の変化を測定し、また、加速器事故で大量の粒子がばらまかれた場合にセンサーを保護する機能を、赤外レーザーを入射することで評価した。 センサー耐圧は低線量で一旦劣化し、線量とともに未照射時の耐圧に回復する様子が観測された。ウェハーの種類によらず、劣化分は300V程度である。初期耐圧を全空乏化電圧より十分高くする必要があるが、実質的な問題は生じない。これはp型バルクに特有で、センサー周辺部の設計が関与していると考えられる。一方、信号分離に必要なバイアス電圧は、線量とともに増加するが、稼働電圧以下なので問題はない。 大電流が発生する場合を疑似するために赤外パルスレーザーを入射し、パンチスルー機構によるセンサー保護機構の時間特性を測定した。パンチスルーを起こしやすくする構造を選定することができた。
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