今年度の物理解析の対象を、K_L→π^0π^0vv崩壊過程の検出に置いた。この崩壊分岐比は、K_L→π^0vvが小林・益川ユニタリティー三角形の虚数部パラメーターηを示ずのに対し、実数部パラメーターρを示し相補的な情報を与える。また、この崩壊分岐比はほかのFCNC課程と同様、相互作用の高次の項に標準理論を超える新たな事象があれば、標準理論の予言値と大きく異なった結果を与えるため、この過程の研究は新現象を含む現象論的モデルの検証に極めて有用である。 K_L→π^0π^0vv過程は終状態がすべて中性粒子である困難さがある。E391a実験のメインモードK_L→π^0vv過程の研究で開発された解析・シミュレーションコードを基にして粒子数の多いK_L→π^0π^0vv解析用に特化し最適化した。稀事象データの解析に於いて解析の客観性を担保するために、最終的な解析方法が確立し、背景事象混入の推定が確定するまで、シグナル領域の計数を行わない「ブラインド解析」の手法を取った。ガンマー線同定のシャワーパターン認識、π^0崩壊光崩検出の純度の向上を図り、ベトカウンターのデータ情報の多次元的活用に努め、K_L→π^0π^0vv過程の主たる背景事象であるK_L→π^0π^0π^0、K_L→π^0π^0からのシグナル領域への混入が無視できることをシミュレーションで確認した。更にbifurcation法に依り、実データそのものからシグナル領域への背景事象混入を推定し、全サンプルを通して0.5事象以下であることを確認した上ではじめてシグナル領域を「開け」たところ、全サンプルに対し零事象であった。我々の実験統計感度(検出1事象に対応する崩壊分岐比感度)はラフに4×10^<-7>程度と見積もられており、これまでの測定限界を2桁近く更新できる。現在K_Lビームフラックス量の最終確認が進行中で、それが固まり次第、最新の崩壊分岐比の上限値に関する論文を雑誌に投稿する準備を行っている。
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