核力スピンフリップ振幅の存在が示唆されたのは米国ブルックヘブン国立研究所のRHIC加速器における偏極度計の開発おいてである。これは陽子シンクロトロン内にフィラメント状の炭素標的を挿入して偏極陽子ビームにかざすことにより散乱されてくる炭素の左右非対称性を測定することにより判明した。本研究ではその逆運動学を用いてシンクロトロンで加速中の重イオンビームに偏極陽子ガスジェットターゲットを用いて偏極解析能を測定しようという試みである。加速ビームの核種を変えることによりその原子核依存性を解明することができる。 具体的に実現を目指しているJ-PARCの主リングにおいてはそのビームバンチが50nsと長いためバンチ通過時間を起点とした飛行時間測定法によるバックグラウンドとの見分けが非常に困難である。本年度においてはその運動学をシミュレーションプログラムにより解析し、反跳陽子の一部はMeV以下のエネルギーしか持たず、2枚のシンチレーションを通過させるのは困難である。そこで、反跳陽子がフォイルを通過する際にたたき出す二次電子を捕らえることにより、長いバンチ長のビームにおいても飛行時間測定を可能にする手法のR&Dを行った。 飛行時間の起点となる2次電子の検出効率を測定して、241Amからのα線が10μmのAlフォイルを1枚通過する際、マイクロチャンネルプレートと呼ばれる荷電増幅器を用いて50%程度の効率を達成した。フォイルの種類や枚数をふやすことで100%に近い検出効率を目指すことが今後の目標である。
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