原子番号が104より大きな「超重元素」は自然界には存在せず、加速器からの重イオンビームを標的原子核に照射して人工的に合成されてきた。これまで、鉛などを標的とした「冷たい融合反応」により113番元素までが合成され、ウランやプルトニウムなどを標的とした「熱い融合反応」ではさらに重い114~118番元素を合成したと報告されている。しかし、その生成確率は1pb程度と極めて小さく、どの入射エネルギーを選択することが極めて重要となるが、最適なエネルギー選択に不可欠である融合障壁の位置は実験的には測定されておらず、理論によっても数MeV程度の範囲でばらつきがある。エネルギーの選択が数MeVでもずれれば、生成確率は約1/10と激減し、この種の合成実験には致命的となる。本研究では、120番元素の合成候補であるニッケル64とウラン238の融合反応において、入射エネルギーの微調整が容易でエミッタンスのよい重イオンビームを供給できる日本原子力機構のタンデム・ブースター加速器実験施設で行った。核燃料物質であるウランを照射できるように大型真空散乱槽を整備し、ビーム入射方向に対して後方172度と162度方向に散乱された準弾性散乱粒子を半導体検出器で測定した。ビームエネルギーを1.5MeV毎に変化させ求めた準弾性散乱断面積の詳細な励起関数測定を重心エネルギーによる一階微分をとることで、障壁分布を実験的に導出した。求められた障壁分布の広がりの様子などから、短軸側と長軸側から衝突した場合に障壁の位置が大きく異なるといったウランの変形効果をよく理解することができた。
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