従来の電子・電子同時計数法は遷移過程を探査する目的に専ら用いられてきた。本研究は、固体表面付近の任意の原子サイト近傍のpartialな、フェルミ準位上下の電子状態の知見を同時に且つ選択的に得るという、従来の視点とは異なった発想に基づいており、本年度はオージェ電子・エネルギー損失電子同時計数法を確立するため、焦点調整が容易な装置(同軸対称鏡型分析器)を試作・実用化することを主目的とした。 本年度は前年度に引続き調整を進め、同時計数分光装置を完成させた。この装置はTe/Feのデータ取得に部分的に用いられ、この結果は研究成果として学会に発表された。内容は、Tb-Fe間の電気的・磁気的相互作用は界面から2.0nm程度の範囲にまでしか及ばないことを示唆するものである。ただ、一昨年度に申請時からの大幅な設計の見直しをせざるを得なかったため計画が遅延し、光電子・オージェ電子同時計数に用いる装置の試作には漕ぎ着けたもののオージェ電子・エネルギー損失電子同時計数法を確立するには至っていない。 オージェ電子・エネルギー損失電子同時計数法を確立するためには、電子エネルギー損失過程の遷移確率が大きくなる位置に装置の再配置をしなければならない。この変更には費用と時間が必要であるが不可能ではない。早急に変更を終了し、ここで提案したオージェ・エネルギー損失電子同時計数分光法がナノスケール領域でのフェルミ準位上下の電子状態の知見を同時に選択的に得るために有効であることを示したい。具体的な対象としては、(a)Tb/Fe間の磁気的相互作用のメカニズム、(b)Fe/Si(111)界面層における強磁性秩序珪素化層の有無と、磁性イオンの電子状態の深さ依存性との相関、等を予定している。
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