研究概要 |
本年度の研究成果は以下の通りである.まず,解析手法の開発という観点から本年は,MEMにより求めた静電ポテンシャルをもとに電場ベクトルを計算し,その流線の特異点を結ぶ面を調べることにより,各イオン核の静電ポテンシャルの及ぶ範囲を求める解析手法を開発した.これは電子密度におけるAIM(Atom in molecule)解析に対応するものである. さらに,この手法をラットリングにより高い性能を示す熱電材料に適用し,熱電特性を解析した。その結果,ラットリングファクターと名付けた,それぞれのイオン核の静電ポテンシャルが及ぶ範囲の体積で熱電特性の性能指数を整理すると,線形な相関が有る事を見いだした.これは,結晶構造の変化だけを見ていても分からず,静電ポテンシャルを解析して初めて分かる事であるまた,静電ポテンシャル解析の応用では,プルシアンブルー類似体でリチウムイオン電池の電極材として用いられる物質の解析を行った.解析結果から,電荷移動にさいし電子は非局在かして比較的広範囲に分布することがわかり,この事が電気の出し入れに対して,この物質を劣化しにくくしている事が分かった.この成果は山陰中央新報に掲載された. 我々はこれまで,静電ポテンシャルの解析において,イオン核からの効果を点電荷として扱ってきたが,原子における熱振動の効果を取り入れる事で,より精密な静電ポテンシャル解析を可能とする手法の開発も行った.これらは,当初の研究計画に無かったもので,予定以上の成果をあげられる事ができたと考えている.
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