単層カーボンナノチューブのテラヘルツ(THz)光領域の光学応答を調べ、単層カーボンナノチューブをパルスTHz光の発生や検出へと応用するための基礎的な知見を得ることを目的として研究を行った。研究期間(平成20年度~22年度)に得られた結果は以下のとおりである。 1) 金属と半導体を分離させた高品質な薄膜を作製し、それ近赤外~可視光領域の吸収スペクトルから、試料の評価を行った。その結果、95%以上の純度で金属と半導体を分離した高品質な薄膜試料を得ることに成功した。 2) 上記試料の赤外領域のスペクトルを測定するために、FTIR、FT-FIRを用いた吸収スペクトル測定と、時間分解THz分光測定を行い、これらの試料の広帯域吸収スペクトルを得た。この結果、金属試料では0.06eV付近に幅の広い吸収帯が観測された。これは、金属単層カーボンナノチューブがバンドルを作ることによって生じた擬ギャップや、アームチェア型以外の「金属」チューブが持つ小さなギャップがその起源であることが考えられる。一方、高純度半導体試料でも同様のエネルギー値にピークを持つ幅の広い吸収帯が観測されたが、その起源は金属チューブと異なり、ナノチューブ中の欠陥によるギャップ内遷移によるものと考えられる。 3) 高純度半導体薄膜上に高周波スパッタにより金電極を付け、THz光伝導アンテナを試作した。半導体単層カーボンナノチューブの第2遷移の吸収帯(800nm)にフェムト秒パルス光を入射させることにより、伝導度が変化することを確認した。しかし、アンテナ電極間の抵抗値が十分に高くなく、実際にTHz光の発生を確認するには至らなかった。
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