本研究の主要テーマである、3d遷移金属化合物系の硬X線光電子分光(HX-PES)における(1)VO_2の金属絶縁体転移に伴う電子状態の変化の機構解明及び(2)NiOの電子状態の再検討の理論研究において大きな前進があった。(1)に関しては、VO_2の金属絶縁体転移に伴う価電子帯の電子状態の変化とHX-PESのスペクトル変化を我々の開発した拡張型配置間相互作用模型で統一的に理解できることを初めて示した。また、VO_2の金属絶縁体転移はMott-Hubbard転移である可能性が高いことを指摘した。(2)に関しては、典型的なモット絶縁体と考えられてきたNiOのバンドギャップの起源の再検討を行なった。NiOの電子状態とりわけバンドギャップの起源についての研究は、3d遷移金属化合物全体におけるモット絶縁体の概念を見直し新しい描像(Zaanen-Sawatzky-Allen理論)が生まれる直接のきっかけを与えるなど、現在の標準的理論の形成に大きな影響を与えてきた。そのバンドギャップの起源は、これまで酸素2p-Ni3d電荷移動型ギャップであるとされてきた。我々は、HX-PESスペクトルの形状を理論解析し、その結果NiOのバンドギャップは従来の解釈とは異なりZhang-Rice二重項束縛状態から構成されていることを初めて示した。 これらの成果は国内においていち早く評価を受け、2009年1月に東京大学本郷キャンパスで開かれた日本放射光学会・放射光科学合同シンポジウムにおいて招待講演として発表された。また、我々の成果は国際的に評価を受け、2009年5月にアメリカのブルックヘブンで開かれる国際会議においても招待講演として発表する予定になっている。
|