本研究の主要テーマである、3d遷移金属化合物系の硬X線光電子分光(HX-PES)における(1)CrNの金属絶縁体転移に伴う電子状態変化の機構解明と(2)コバルト添加の二酸化チタンの電子状態研究において大きな前進があった。 (1)本研究では、窒化クロムCrNの電子状態と金属絶縁体転移の機構解明のため、硬X線光電子分光等を用いて詳細に解析した。その結果CrNは電子相関の非常に強い絶縁体から反強磁性金属への転移を示していることが明らかとなった。遷移金属化合物では反強磁性絶縁体から相関の強い金属への転移を起こすのが通常であるが、今回の我々の解析により、CrNは絶縁体から反強磁性金属への非常に珍しい相転移を起こしていることが明らかとなった。 (2)コバルト添加の二酸化チタン(Co:TiO_2)薄膜は、大気中でも極めて安定な物質であり、室温より高い温度でも磁石としての性質を失わないため、スピントロニクス材料として非常に期待されている。また、我々の目に見える光(可視光)に対してほぼ透明であるため、光通信で用いられる光アイソレータなどの光機能素子にも応用することが可能である。本研究は、このコバルト添加の二酸化チタンの電子状態を硬X線光電子分光等で詳細に解析した。その結果、二酸化チタン薄膜表面では、金属的な性質を表すフェルミ端が存在しないため半導体的な性質を示す一方で、薄膜内部では、フェルミ端が存在し金属的な性質を示すということを見いだし、薄膜の表面と内部では電気伝導特性に違いがあることを突き止めた。
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