研究課題/領域番号 |
20540324
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研究機関 | 独立行政法人理化学研究所 |
研究代表者 |
田口 宗孝 独立行政法人理化学研究所, 励起秩序研究チーム, 研究員 (10415218)
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キーワード | 硬X線光電子分光 / 3d遷移金属化合物 / 配置間相互作用模型 / コヒーレント状態 |
研究概要 |
本研究の主要テーマである、3d遷移金属化合物系の硬X線光電子分光(HAXPES)におけるCaCrO_3の電子状態変化の機構解明において大きな前進があった。 CaCrO_3はこれまで多くの実験及び理論研究がなされているがその電子状態の詳細については未解決のままである。本研究では、内殻硬X線光電子分光法と価電子帯電子分光を駆使してペロブスカイト型酸化物CaCrO3の電子状態の研究を行った。その結果、この物質は反強磁性秩序を示すにもかかわらず価電子帯光電子分光スペクトルに金属の特徴であるシャープなフェルミ端が存在することが明らかとなった。さらに、このフェルミ端近傍の電子状態の主成分はCrの3d状態であり、この電子状態がフェルミ端から約2eVにわたって二つの構造を持ちながら広がっていることも判明した。このことは、Crの3d電子には強い電子相関が働き、コヒーレント・インコヒーレント状態がフェルミ準位近傍に形成されていることを示している。上記のコヒーレント状態は、硬X線光電子分光のCr内殻2pスペクトルにも顕著に反映されている。実際、このコヒーレント状態からのスクリーニング効果を取り入れた理論計算を行うと非常に良く実験スペクトルを再現することができる。また、この解析よりクーロン斥力Uはおおよそ4.8eVと見積もられ、CaCrO_3における3d電子の強い電子相関効果が理論解析からも再確認された。これらの結果から、CaCrO_3はモットハバード型と電荷移動型のちょうど中間に位置する強く混成した反強磁性金属であることが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまで申請者は様々な3d遷移金属化合物に対し硬X線内殻光電子分光スペクトルの理論的解析を行い、内殻スペクトルに対する理論模型の開発を行なってきた。また、本研究課題の目的に従って様々な物質に対して適用しその有用性を国内外に示してきたことにより、この理論模型は大分認知されるようになってきている。実際今年度ドイツ・ハンブルグで行われた国際ワークショップでは、申請者が本研究課題で開発を行なってきた理論模型の招待講演を行ない、さらに他の海外研究者達も我々の模型に基づくスペクトル解析を多数発表していた。このことは、本研究課題がおおむね順調に進行していることを示している。
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今後の研究の推進方策 |
来年度は本研究課題の最終年度であり、これまで得られてきた研究成果を踏まえ本研究の総仕上げを行う。特に今年度集中的に研究を行なってきたがいまだに解決できていないマグネタイトFe_3O_4の理論解析を引き続き行い、最終結論を出す予定である。また、本研究の中心課題は3d遷移金属化合物であるが同様な強相関電子系である4f電子系への応用も更に発展させる予定である。
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