我々は5f電子系磁性体における明らかな磁気メモリー効果を初めて見出た。その応答性・再現性が顕著なことから、磁気記憶材料に対する更なる展開・開発が期待できる。本研究では、既に多数の三元系ウラン化合物の磁気メモリー効果を観測した。特に、平成22年度からU2PtSi3の純良単結晶を用いて、c面内において磁気メモリー効果の実験測定が完成した。U2PtSi3はA1B2型六方晶構造を持ち、12K前後でスピンがランダム方向に凍結され、スピングラス的な振舞を示す。本研究で、U2PtSi3の単結晶試料を50 Oeの磁場中で冷却した後磁化強度の温度変化およびスピン凍結温度以下で磁気緩和を測定した。その結果、明瞭な磁気メモリー現象が現れた。U2PtSi3は典型的な磁気メモリー物質であることを判明した。さらに、ゼロ磁場中冷却(ZFC)後磁化率の温度変化の測定結果により、U2PtSi3における磁気メモリー効果はスピングラス凍結に起因することを確認した。本研究により、5f電子系物質U2PtSi3において磁気記憶性質の存在が明らかにした。そのメモリー効果は広い温度範囲で観測でき、95K前後で最も顕著である。磁気メモリー効果はスローダイナミックスにより誘起され、基礎および応用面から、これまで3dあるいは4f電子系ランダム磁性体(希薄磁性合金、スーパーパラ磁性体、アモルファス磁性合金など)で研究されてきた。物性物理学の立場から考えれば、U2PtSi3など5f電子系NMAD磁性体は上述した物質と異なり、その磁気メモリー効果は、スピングラス状態でフラストレートした磁気相互作用のランダム凍結による誘起された現象である。3d、4fおよび5f電子系で観測された磁気メモリー効果を比較して、それらの本質的な区別が探し出すことは興味深い研究であり、更に展開研究が必要である。
|