研究概要 |
Na_3Cu_2SbO_6は稜共有のCuO_6八面体がSbO_6八面体を囲んだ形のハニカム格子を形成し、Na^+層と交互に積層している。磁化率と磁気比熱の振舞いから、この系ではT→0で全てのスピンが非磁性状態をとり、スピンギャップ(ギャップエネルギーΔ_G〜90K)が存在していることがわかった。Cu^<2+>(S=1/2)のJahn-Teller歪みと3dx^2-y^2軌道の形とを考慮すると、この系の磁性はハニカム格子というよりは、Sbを挟んだCu-O-O-Cu pathの磁気相互作用を考えた一次元スピン系と見るのが適当と思われる。一次元鎖モデルで磁化率と比熱のデータを解析したところ、反強磁性(AF)-強磁性(Ferro)交替鎖モデルで振舞いを良く再現することが分かった。本研究ではスピンギャップのメカニズムの直接的な証拠を得るために、大型単結晶を作成して中性子磁気非弾性散乱を行い、singlet-triplet励起を観測した。励起エネルギーΔE=9meVではa^*-b^*面内でのQ-scanで、(h,0.5,0),(h,2.5,0),(h,3.5,0)の場所にピークを観測した。ただし、h方向にscanしてもピークは観測されなかった。これらの結果は、スピン系の磁気的相互作用の繋がりが一次元的であることを示し、さらに、その一次元鎖上のCu-O-CuのpathではFerro的(J_F)、Cu-O-O-CuのpathではAF的(J_<AF>)な相互作用が働いていることも示している。磁気励起の分散関係を解析した結果、ΔG〜8.9meV,J_F〜-12.5meV,J_<AF>〜13.9meVを得た。結晶構造の特徴と3d x^2-y^2軌道の形から予想した一次元交替鎖のモデルが、当を得たものであることがわかった。
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