本研究は、パルスマグネットを用いた高速磁場掃引下において比熱測定を行うことにより、特にスピン系における緩和現象を観測することを目的とする世界初の試みである。通常よく行われる断熱法や緩和法などと異なり、交流法を用いることで磁場の関数として連続的に比熱を測定することが可能となる。 交流法はサンプルに熱を交流的に加え、それによる温度変化の交流振幅から比熱を見積もる。定常磁場下とは異なり、本研究では数百ミリ秒程度の幅を持つパルス磁場を発生させ、その間に時々刻々と変わる磁場値に対して連続的に比熱測定を行うことを目指す為、高周波化が最重要課題となる。最低でも1キロヘルツ(パルス幅100ミリ秒なら100波長分観測可能となり、例えば最大10テスラのパルス磁場なら単純計算で1000ガウスの磁場分解能に相当する)が要求される。周波数の上限はサンプルの熱伝導度にも大きく依存するが、金属試料の場合で我々は数キロヘルツで観測することに成功し、当初の目的を達成することが出来た。 本研究で達成された測定技術は、今後の強磁場物性研究に大きく貢献する極めて重要なものである。これまで不可能だと思われていた前人未到の強磁場領域へと容易に拡張可能であり、実際に東京大学物性研究所の国際超強磁場施設において、パルス強磁場中比熱測定の共同研究を継続して現在も行っている。
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