研究概要 |
前年度までに,広い組成範囲で低エネルギー磁気励起の組成依存性を明らかにできたBi_<2+x>sr_<2-x>CuO_6(Bi2201)系に対し,磁気相間の起源を理解するため高エネルギー中性子散乱実験を行った.La_<2-x>Sr_xCuO_4で見られる磁気励起の多重構造はBi2201系では確認できず,同じ単層構造の超伝導体でも磁気励起に違いがあることがわかった.両系で見られる特徴的な低エネルギー励起の組成依存性も含めこれら違いは,磁気励起の多重構造のエネルギー特性が,ドーピングによって局在スピン系から遍歴電子系への特徴に移り変わると考える事でうまく理解できることを指摘した, また,電子ドープ型銅酸化物Pr_<1.4-x>La_<0.6>Ce_xCuO_4では,電子ドープされた反強磁性磁気秩序相の励起スペクトルは,ドーピングが進んだ領域でもスピン波分散に似た特徴を持つことを示した.超伝導相では特異な形状の磁気励起スペクトルが観測されているので,この結果は磁気秩序相と超伝導相の相境界で高エネルギー励起に劇的な変化が生じることを示唆している. さらに,J-PARCに設置されたチョッパー型分光器で,La_<2-x>Sr_xCuO_4の純良大型単結晶を用いた中性子非弾性散乱実験を行い,日本国内では初めて銅酸化物高温超伝導体における100meVまでの高エネルギー磁気励起を捉えることにも成功した.傾斜組成育成法を活用した単結晶育成では,T'構造単層ホールドープ系(Pr,Nd)_<2-x>Ca_xCuO_4,三次元金属銅酸化物La_<8-x>Sr_xCu_8O_<20>など,大型結晶の作成が困難とされていた系について1ccを越える結晶の作成にも成功し,低温での長距離磁気秩序の存在を中性子散乱実験で明らかにできた.
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