本研究の目的は2つの超伝導ギャップを持つ特殊な第二種超伝導体であるMgB_2の精密磁化測定とトンネル測定通して、多ギャップであるがゆえ現われる新しい磁場中超伝導現象(渦糸相転移等)を探索しその機構を解明すること、さらにその現象を制御することである。平成20年度はMgB_2の純良単結晶における渦糸相転移現象等の探索とポイントコンタトを用いたトンネル測定装置の開発に重点を置いた。渦糸相転移の探索では、本研究用に開発された「渦糸shaking法」と「カンチレバーを用いた高精度トル測定法」を組み合わせることにより、広い温度・磁場範囲において渦糸ピン止め効果が排除された熱平衡磁化の測定を可能にした。この結果、MgB_2の渦糸系において秩序-無秩序転移、渦糸格子融解転移という2種類の一次相転移が存在することを初めて実験的に直接証明した。さらに精密な熱非平衡および平衡磁化の温度依存性の測定結果の比較により、この物質では渦糸の無秩序相の過冷却現象が他に例を見ないほど広い温度範囲で起こること、この過冷却現象の消滅がMgB_2のもつ2つの超伝導ギャップのうちの小さなギャップ出現に関連することを見出した。これまで多ギャップという視点から渦糸系の状態変化をとらえた例はなく、この結果は今後類似の多ギャップ超伝導体の超伝導現象を理解する上で、重要な情報を与えるものと考えられる。トンネル測定では、ピエゾ素子を用いたポイントコンタト型トンネル測定装置の開発を行った。現時点で4.2Kといつた極低温においても動作可能な装置の作製までに至った。今後これを用いて、再現性よく超伝導ギャップが観測され、多ギャップの出現と渦糸系の転移が関連する上記の結果に対し、実験的裏付けができるものと期待できる。
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