本研究の目的は2つの超伝導ギャップを持つ特殊な超伝導体MgB_2の磁化測定とトンネル測定通して、多ギャシプ超伝導体であるがゆえ現われる新しい磁場中超伝導現象を探索しその機構を解明すること、さらにその現象を制御することである。21年度は、MgB_2単結晶の渦糸状態のさらなる解明とトンネル測定技術の確立を中心に研究を進めた。 渦糸shaking法と磁気トルク法を組み合わせた精密磁化測定により、温度・磁場相図上に、秩序-無秩序転移、渦糸格子融解転移といった一次相転移に加え(昨年度成果)、渦糸グラス融解転移という2次相転移が存在することを実験的に証明した。これら3つの相転移線の存在は、銅酸化物でも観測される現象であり渦糸系の物質によらないユニバーサルな性質を示したという点で意義がある。またこれら渦糸相転移とは別に2つのギャップの強さの大小関係の変化が起源であると予想される渦糸ピニングカの急激な増加も低磁場で観測された。20年度に見出された2ギャップの出現による渦糸グラス過冷却状態の消失と同様、これらの磁化特性対する超伝導ギャップの測定からの裏付けが待たれる。トンネル測定に関しては、昨年度開発したピエゾ素子を用いたポイントコンタト型トンネル測定装置を使うことにより、従来型超伝導体Nbの超伝導ギャップの温度変化が観測可能になった。現状ではMgB_2に対する超伝導ギャップ観測にまで至っていない。さらなる測定技術の向上を目指して現在実験が進行中である。 当初の計画に加え、2つのギャップを持ちMgB_2の良い比較物質となる鉄砒素系超伝導体Ba(Fe_<1-x>Co_x)_2As_2単結晶について磁化特性の測定も試みた。測定した超伝導転移温度近傍では磁気異方性は3-3-5でほぼ一定であり、多ギャップ的な効果(磁化曲線や磁気異方性の急激な変化)は観測されなかった。
|