本計画の研究対象である希土類金属間化合物YbAl_3C_3は4f電子系としては初めてとなる、結晶格子の幾何学的フラストレーションを背景としたスピン二量体化現象を示す物質である。本年度の研究成果を下記に記す。 ・スピン二量体化現象を示す新たな希土類金属間化合物の探索 4f電子系におけるスピン二量体化現象をより深く理解するためには、YbAl_3C_3に関する研究のみならず同様の基底状態を実現する物質を開発し、その発現機構を探っていく必要がある。探索指針としてはYbAl_3C_3が持つ結晶構造の2次元性と伝動電子濃度の低さ(少数キャリアー)という特徴を併せ持たせるために、軽元素ならびにプニクトゲン、カルコゲン等の電気陰性度の高い元素を構成元素に持つ物質系を中心に合成を試みた。その結果、Yb_3F_4S_2、RNiP(R=La-Er)を初めとする物性報告がなされていない新物質を数種類作成することができた。スピン二量体化と考えられる現象を本年度内には観測するには至らなかったが、物質開発は今後も継続していく予定である。 ・強磁場下での超音波による弾性定数測定 スピン二量体化現象を生じさせる背景となる、80Kにおける構造相転移での電子状態の変化の有無を観測するために、強磁場下での超音波実験を行った。その結果、20T以上で磁場の増加に伴い弾性定数のソフトニングが抑制される振舞を示した。これは以前行ったNMR等の結果とも整合し、電子系が深く寄与した相転移であることを改めて浮き彫りにした。
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