研究概要 |
カーボンナノチューブはグラファイト1層を巻いた直径約1ナノメートルの円筒であり,巻き方のわずかな違いで金属か半導体になる.その電気,熱,機械的に優れた性質は,基礎・応用両面から注目されている.近年,光応答実験が急速に進歩し,ナノチューブの電子状態や構造の決定に大きな役割を果たした.本研究は,実験の解明と新現象の発見を通してナノチューブ独自の光物性の知見を深めることを目的とする.今年度,申請者はカーボンナノチューブにおける電子の擬相対論効果と,金属構造に局在した光とナノチューブの相互作用の研究を行った. 1ナノチューブ中の電子の運動は光に比べて十分遅いにもかかわらず,あたかも光速で動いた場合の相対論的極限と同様である.よって,膨大なエネルギーを要することなく,ナノチューブは電子の擬似相対論効果の検証の舞台となる.本課題では,空間的に局在した光によって,運動する電子・正孔の束縛状態が励起されること,束縛の度合いは重心運動が大きくなるにつれて強くなることを明らかにした.相対論的でない場合,束縛の度合いは重心運動に依らない. 2空間的に局在した光によって新たな光物性が現れることがあるが,局在した光を作る方法の一つは金属構造を用いることである,本課題では,金属構造にカーボンナノチューブを配置した系の光応答の効率的な計算法を開発した.一般に,応答を表す関数は2つの位置座標に依存するが,金属構造の光応答は近似的に1つの位置座標の応答を用いて表されるため,ナノチューブに対してのみ2つの位置の応答を取り入れることで,大幅に計算効率が上がる.この方法により,1万個のオーダーのサイト数を持つ系の計算が可能になった.
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