研究概要 |
カーボンナノチューブはグラファイト1層を巻いた直径約1ナノメートルの円筒である.近年光応答実験が急速に進歩し,ナノチューブの電子状態や構造の決定に大きな役割を果たしている.本研究は実験の解明と新現象の発見を通してナノチューブ独自の光物性の知見を深めることを目的とする. カーボンナノチューブの垂直偏光吸収におけるファミリー効果を明らかにした.ナノチューブの物理量は主にその直径によってスケールされるが,原子配列の螺旋構造に応じて,そこからのずれが生じる.これはファミリー効果と呼ばれ,チューブ構造の特定に用いられる.チューブ軸に垂直な偏光の吸収特性には,平行偏光吸収には現れない電子と正孔のエネルギーの非対称性に関する情報が含まれる.非対称性によって光学不活性であった励起状態が活性化されること,その場合の励起エネルギーと吸収強度の構造依存性,電子間相互作用依存性などを明らかにした. また前年度に引続き,金属ナノ構造中に局在した光に対するナノチューブの応答に関する数値的研究を行った.空間座標を離散化した系でも,ナノチューブのみがある場合の連続座標を用いて計算した垂直偏光吸収スペクトルや,金属構造のみが存在する場合のプラズモン共鳴による局在光が再現できることを確認した.これらを踏まえて平成22年度には,両者が共存する系におけるナノチューブとプラズモン共鳴による局在光の相互作用の計算を実施する予定である.
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