様々な有機分子から構成される電荷移動錯体(CT錯体)は、磁性、誘電性、伝導性などにおいて多くの興味深い現象を示すことで注目されており、現在の固体物理学研究の中心的ともいえる物質群を形成している。本研究では、数あるCT錯体の中からとくに「強誘電相転移(中性-イオン性転移)」を示す物質TTF-CA結晶に注目し、テラヘルツ(THz)領域(遠赤外領域)の時間分解測定が可能なフェムト秒レーザシステムを構築し、試料の強誘電性の高速光制御を行うことを目的とした。平成20~21年度にかけてTHz分光システムを完成させ、フェムト秒領域の時間分解透過スペクトルの測定が可能となった。それとともに、対象試料であるTTF-CAの薄膜結晶の合成にも成功した。研究期間の後半は、得られたシステムと結晶を用いて、THz領域(50cm^<-1>-80cm^<-1>)の透過スペクトルの温度依存性の測定を行った。その結果、中性-イオン性転移にともなう分子の剛体振動モード(ライブロンモード)の周波数シフトが明瞭に観測することに成功した。得られた結果を中赤外スペクトルの結果と合わせて議論し、剛体振動モードと電荷移動量の関係を明らかにすることができた。 更に、800nmの励起光照射後のTHz透過光強度の時間変化を測定することに成功した。これは、光励起による中性一イオン性転移をTHz領域において初めて示したものである。また、励起光の強度依存性の測定から、光励起後の変化の大きさは、励起光強度に対して線形に増加していくことが明らかになった。
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