ナノスケールの摩擦現象の理解は工学的な視点からも重要であり、『ナノトライボロジー』と呼ばれる研究分野が発展している。その中の研究対象のひとつである物理吸着膜の滑り運動は、界面摩擦のメカニズムにミクロな視点からの知見を与えるとして実験的にも理論的にも興味が持たれている。研究代表者・鈴木は、基板振動に対する吸着膜の滑り運動の研究を量子流体であるHe吸着膜に発展させた。実験は10 nm程度の微結晶よりなるグラファイト基板を用いて^4Heまたは^3He吸着膜についてQCM法より界面摩擦の測定を。これまでの研究により、2原子層膜以上の低温域で摩擦力が減少(基板振動に追従しない質量の増加)し、He吸着膜が滑り運動を起こす。解析よるとこの現象は固相である吸着第1原子層の上を同じく固相である吸着第2原子層が滑ることで説明される。最近、より高面密度の^4He吸着膜の系統的な測定により、^4He吸着膜上部の超流動層が下部の固相滑りを抑制する、という新しい現象を見出した。 本年度は理論研究を進めると同時に、実験研究では新しいQCM法の開発を行った。これまでのQCM法ではATカット水晶振動子が利用されMHzの振動数域の測定であったが、音叉型振動子の利用により10KHzの振動数域の測定が可能となった。超流動による固相膜の滑り運動の抑制は基板振幅と周波数でスケールされると予想されている。広い周波数範囲での測定により、重要な知見が得られると期待される。
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