研究課題
本研究は、超低温および強磁場における1次元量子スピン鎖の性質を熱的な測定などから調べることで、量子1次元系の臨界現象を解明することを目的とした。今年度は3年間の研究計画の最終年度として、超低温比熱計で用いる測定系の整備と、強磁場における1次元量子スピン磁性体の磁気熱量効果や磁気トルクの測定を行った。比熱計の開発では、超低温における熱緩和時間測定のための交流ブリッジやヒーターなどの調整を行った。冷凍機のマシンタイムを待って比熱計のテストおよび測定を行う準備ができた。強磁場中の測定では、複合ハルデーン鎖IPA-CuCl_3のハルデーンギャップが消失する9.11Tの量子臨界点近傍で、緩和法比熱計を利用した熱測定を行った。比熱計に設置した試料を磁場中で急激に冷却し、最低温度付近まで冷えた段階で磁場を変化させた。この際に、臨界磁場の近傍で試料の温度に鋭いピークを観測した。ピークの高さは、試料を冷却したときの磁場、冷却前の温度、最終温度などに依存するが、ピークを積分して得られる発熱量から、量子臨界点近傍において水素の核スピンの急激な縦緩和により熱が発生していることが判明した。S=1/2を担うCoイオンが擬1次元鎖を形成しているIsing型反強磁性体BaCo_2V_20_8では、これまでに行った20Tまでの磁気トルク測定に続いて、比熱および磁気熱量効果の測定を行った。磁気トルクで観測された磁気相転移に相当する磁場において、磁気熱量効果に鋭いピークを観測し、磁気転移が明確になった。さらに、磁気トルク測定において磁場を35Tまで拡張することにより、20T付近で新しい磁気転移の可能性を示唆する異常が観測された。
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Journal of the Physical Society of Japan
巻: 80 ページ: 043707-1-043707-4
Journal of Physics : Condensed Matter
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