研究概要 |
今年度は光キャリア注入の対象物質の開発を行った。着目したのは393Kで強磁性金属転移を示すハーフメタル物質CrO_2である。これまでに有毒CrO_3を原料に用いたCVD法によりTiO_2基板上へのエピタキシャル成長膜作製の報告がなされている。これに対して我々は無毒のCr8021を原料にして封管という密封系でのCVD法によりTiO_2基板上にエピタキシャル成長したCrO_2薄膜が作製できることを見出した。さらに、原料や基板の温度を最適化して、これまで困難とされてきた表面近傍までCrO_2が生成した膜の作製に成功した。今後、光キャリア注入によるハーフメタル特性の制御に期待がもたれる。一方で、新しい応答する物質探索の途中で、ホランダイト型チタン酸化物における室温強磁性的な振る舞いを見出した。電子状態の研究より、ホランダイト型では局在Ti3+と酸素欠損が強磁性の発現に関与していることを明らかにした。この結果は欠陥導入がホランダイト型チタン酸化物では室温強磁性という機能を創出する有効な手法となることを示している。本研究は、これまで手つかずであった欠陥を用いた機能の創出や欠陥誘起現象の物理といった研究分野に光をあてるものになった。 光キャリア注入の効率向上の指針を得るために、VO2/TiO2界面の評価を光電子分光法により行った。その結果、界面では(V,Ti)O_2固溶体が形成されていること、固溶体内のTi濃度は界面付近で高く表面に向かうに従い低くなること、我々の膜では7nm以上の膜厚から純粋なVO2が出来ることを見出した。基板温度など実験条件の最適化により界面構造が制御できれば、さらに高効率のキャリア注入が望めることがわかった。本研究結果による開発指針の獲得により、光キャリア注入によるVO2の金属絶緑体転移温度制御に関する今後研究に展望が開けた。
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