研究概要 |
ランダム行列理論の方法は, インターネットや人間関係などのつながり方を記述すると考えられている複雑ネットワークの理論にも適用できる. 特に, 複雑ネットワークの隣接行列の固有値分布は, 量子カオス系に対する半古典量子論から導かれるのと同様の普遍的なゆらぎがあるなど, ランダム行列の固有値分布と共通の特徴をもつことがわかっている. そのため, ランダム行列理論は, 複雑ネットワークを理解する上で有用であることが期待される. 複雑ネットワークの特徴としては, 次数(1つの頂点から出る辺の数)がべき分布する性質(スケールフリー性)が重要であることがよく知られている. 今回は,ネットワークの頂点が2つの種類に分類され, 異なる種類の頂点同士のみがつながる場合を考えた. それぞれの種類の頂点の次数分布は異なるが, いずれもべき分布になるモデルを構成し, その隣接行列およびラプラシアン行列の固有値分布を場の理論的な方法(レプリカ法)により評価した. その結果, 平均次数が大きい極限では, 固有値分布の振る舞いを解析的に評価できた. 特に, 固有値分布のすそ野の部分については, べき分布が得られ, その指数と頂点の次数分布の指数との間の関係が明らかになった. また, 平均次数が有限の場合において固有値分布を扱うための近似的な方法として, 有効媒質近似を導入した. その結果, 数値的に生成したネットワークに対する計算との比較において, 平均次数が十分に大きい場合には, 良い一致が得られることがわかった. また, 固有値分布のすそ野の部分については, 平均次数が小さい場合でも, 良い一致が得られた.
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