森の射影演算子法を用いた大偏差統計関数の数値解析手法の提案に関する研究報告を中心に行った.実測の時系列(信号)から定義に従った大偏差統計関数の分配関数を求めた上で,レート関数を求めると,有限サンプル効果と呼ばれる観測可能な揺らぎの幅が時系列の長さや粗視化する時間幅といったパラメータに依存する制限を受けるが,提案手法の場合,分配関数が従うある種の運動方程式を近似的に解くことになるので,有限サンプル効果の制限を受けず広い範囲の揺らぎを捉えることに成功した.また,これにより,ローレンツ系に現れる局所軌道拡大率が発散することで現れる新たなタイプのq相転移(大偏差統計関数の非解析性)が拡大率スペクトル(局所軌道拡大率のレート関数)の直線部分として現れることを示し,その可解な一次元カオス写像モデルも合わせて提案した.これは,実根を持たないxについての二次方程式x^2+1=0の実根をニュートン法で求めるときに現れるカオス写像で,その不変密度関数はコーシー分布となる.任意の時刻の値が初期値と時刻によってあらわに表現できる可解カオスモデルで,局所軌道拡大率は非双曲性と拡大率の発散による二つのq相転移を呈する.このように新たなタイプの可解カオスモデルの提案ができたのではないかと考えている.グラフ・ネットワーク上の酔歩によるリンク構造とノード特性量(ノードごとに与えられた時間に依存しない量)の分布の両方の特徴づけについても研究を続け,複雑ネットワークの基礎モデルでのq相転移の相の意味を考察した.
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