研究課題
当初の研究実施計画では、平成22年度は複雑ネットワーク上における繰込理論の構築を行う予定であったが、前年度(平成21年度)の研究計画実行の中で、これまで積極的には取り入れられてこなかったノード間結合における次数相関の影響を考慮し、平均場近似を超えた複雑ネットワーク上のパーコレーション理論を構築できる可能性が開けてきた。構成要素間の相関を取り入れた相転移の一般論構築は繰込理論のみに留まらず統計物理学全般において重要な問題の一つである。そこで、最終年度の研究計画を修正し、研究代表者(谷澤)はノード間の次数相関を取り入れたパーコレーション理論の構築を行い、研究分担者(増田)は、主として階層構造を持つ複雑ネットワーク上のさまざまな動的現象の解析を行うこととした。主な成果は以下の通りである。まず、次数による選択的ノード除去に対する複雑ネットワーク上のパーコレーション転移を次数相関を取り入れた形で記述する解析的表式を得ることができた。次に、その表式を用いて、スケール・フリー・ネットワークの選択的ノード除去に対する脆弱性を著しく改善するネットワーク構造を見つけることができた。この構造はほぼ同じ次数を持つノード同士が結合し、さらにそれらの同次数ネットワークがゆるやかに相互結合するという独特な階層構造を持っている。また、階層構造を持つ複雑ネットワーク上での動的現象の解析に関しては、囚人のジレンマゲームにおいて協力者同士が形成するクラスターがパーコレーション転移を起こすこと、ガウシアン・ノイズが入ったCollective Dynamicsにおいては中心極限定理の要請よりもゆらぎが抑制される傾向にあること、などを含む有益な結果を数多く得ることができた。これらの結果を踏まえ、最終目的である複雑ネットワークにおける繰込理論構築に向けて今後さらに考察を進めていきたい。
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