本研究は、電子Cold Collisionと呼ばれるミリeV領域での超低エネルギー電子衝突における電子分光法を開発・確立し、極めてde Broglie波長の長い電子波と物質(原子・分子)との相互作用により発現する量子効果の観測とその解明を目的とするものである。10meVのエネルギーの電子はde Broglie波長が122Åにもなり、数Å程度の大きさである原子・分子と比較しても極めて長いものであり、量子効果が極めて明確に現れることが期待される。本年度は、前年度までに行った超低エネルギー電子ビーム生成装置の開発・改良(超低エネルギー電子ビームの大強度化と低エネルギー限界の大幅な拡張)に基づき、種々の原子・分子の衝突断面積を精密に測定するための、装置全体の高度化を行った。具体的には、実験装置の磁気シールドの増強と電子ビーム生成室と衝突室の間の差動排気システムの構築である。また、前年度より開始された、高エネルギー加速器研究機構・放射光科学研究施設(KEK-PF)の新しい運転形態であるTop-Up運転の特性に合わせて測定手法を整合せた。こえらの開発に基づき、超低エネルギー電子を用いて、種々の原子・分子についてCold Collision領域における電子衝突断面積の測定を行った。その結果、これまで得られていなかった極限エネルギー領域での断面積データを得ることに成功し、一般的に低エネルギー領域で用いられていた理論モデルが破綻することを見出した。また、過去に報告された極限エネルギー領域での断面積データについても、再検証が必要であることを見出した。
|