粒子の位置と運動量など、互いに共役な関係にある物理量は、どちらか一方を選んで測定はできても、両方を同時に測定することは原理的にできない。このような量子力学の相補性を利用して、量子暗号のセキュリティを証明する一般的な手法の構築を進めており、本年度は、3基底が絡むために2物理量の相補性を用いる証明法と直感的に整合しにくい6状態量子暗号について、相補性の観点からセキュリティがどう証明されるかを明らかにした。 強い位相参照光をもつ2状態量子暗号は、単純ではあるが光子分離攻撃に耐性を持つという特長を持つ。しかし、その無条件安全性については、位相参照光の量子性を考慮せずに済む場合にのみ証明がなされており、その証明を適用するためには局部発振光を二つ用意するなど実装上の困難があった。本年度は、位相参照光を量子化した無条件安全性の証明を行った。この証明法は、局部発振光を送信者のみが用意する通常の実装に対応している。 単一光子光源は、理想的であれば光子分離攻撃を受けつけないために、単純な量子暗号方式により高効率を達成できるはずである。しかし、実際の単一光子光源は、2個以上の光子を放出する確率がゼロではないため、光子分離攻撃を受ける可能性があり、距離が伸びるにつれて、2光子放出確率に対する要求が厳しくなっていく。本年度は、光の一部を分岐して光子検出を行うという単純な改良によって、光子分離攻撃に対する耐性を向上させる手法を提案した。この手法は、3光子以上の放出確率分布の知識を利用しており、同じ光源であっても、高次の光子統計を把握する精度を上げると、実効的には2光子放出確率を下げたのと同様に通信効率が向上するという特長を持つ。
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