粒子の位置と運動量など、互いに共役な関係にある物理量は、どちらか一方を選んで測定はできても、両方を同時に測定することは原理的にできない。このような量子力学の相補性を利用して、量子暗号のセキュリティを証明する一般的な手法の構築を進めており、本年度は、パルス列の隣接パルス間の相対位相にビット値を載せる手法(DPS-QKD)のセキュリティ確立に向けて、相補性の考え方がどのように適用し得るかの検討を進めた。その結果、各パルスに含まれる光子の数の偶奇について、通信を行う2者が原理的に言い当てる能力が担保されれば、そこからDPS-QKDのセキュリティが導けるという見通しを得た。パルス数と光子数が限定的なケースに限れば、数値計算によってビット誤り耐性などが計算できると考えている。 3基底を切り替える6状態量子暗号方式は、よく用いられる2基底のBB84方式に比べ、似たような装置でも鍵生成レートやビット誤り耐性を向上できる手法として知られているが、光子数を峻別できない普及型の光子検出器を用いた場合に、そのような優位性が維持できるかどうかは不明であった。まず、3基底を均等に切り替える方式では、検出器の同時計数率を手掛かりとすることで、多光子攻撃の頻度を見積もり、簡単に安全な鍵生成レートを導けることを示した。しかし、この手法億送受信者間で基底が一致したケースを選択する過程がBB84方式よりも非効率となり、多くの場合に優位性が失われてしまう。そこで、3基底を不均等に切り替える方式のセキュリティ確立が重要になる。この場合には、.均等切替えの場合にはなかった3光子攻撃が存在することを示した。さらに、そのような攻撃も含めた最終的なセキュリティの証明を行うことで、あらゆる場面でBB84方式よりも高い鍵生成レートが得られることを示した。
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