今年度は実験との対応を考え、2軌道を持つ光格子中の冷却フェルミ原子気体においてバンド幅の違いを取り入れた解析を行なった。引力相互作用をする系のハーフフィリングでの多軌道の効果を動的平均場理論により調べた結果、引力が弱い領域では超流動が現れ、引力を強くするとフェルミ原子のペアにより形成されたボゾンによるモット絶縁体へと1次相転移することを明らかにした。さらに、超流動状態では、二つのバンドの繰り込み因子は引力の増加に伴い交差することから、バンド幅の違いにより相互作用の繰り込みに違いが現れることを明らかにした。これは引力が小さい場合、狭いバンドの原子に対する繰り込みの方が強いのに対して、引力が強くなると狭いバンドでの繰り込みは抑制されることを表している。特に、バンド幅の違いが大きい系では引力の増加に伴い、狭いバンドでの繰り込み因子は一旦減少した後に非自明な上昇を見せ、極大値を取った後に不連続にゼロになる。この振る舞いは、狭いバンドでは引力が強くなるとフェルミ原子のペアによるボゾンが形成されるため、フェルミ原子に対する繰り込みは著しく抑制されることに起因している。すなわち、狭いバンドでは引力増加に伴い、BCS-BECクロスオーバーが起きている。軌道間隔、バンド幅の違い、引力相互作用を変化させて計算を行い、軌道選択型BCS-BECクロスオーバーを含めた超流動状態、モソト絶縁体、バンド絶縁体に関する相図を得た。また、有効モデルを導出して、数値計算結果の定性的な説明を行なった。
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