本年度の当初の目標は、アバランシェフォトダイオード(APD)出力電子数分布測定用冷却測定システムを製作し、線形増倍層(入力電子数と出力電子数が比例する増倍層)を持つAPDの出力電子数分布を液体窒素温度で測定することであった。この測定システムにとっての重要な課題は、超低読み出し雑音と光検出効率を測定するために必要な低照度下における入射光量の絶対精度である。結果として読み出し雑音3電子を達成し、入射光量も1光パルスあたり0.01光子という低照度において±5%の精度で決定することができた。市販のAPDを使用した低平均増倍率における出力電子数分布の測定結果は論文(IEEE Electron Device.Lett.2009)において公表した。このAPDの出力電子数分布は理論値とほぼ一致し、我々の測定システムに問題がないことも分った。論文における読み出し雑音4.2電子は雑音の大きな素子の使用などのため3電子より大きいが、その後の改良(光帰還型光検出器:特許出願)により、現在では素子によらず読み出し雑音3電子以下を達成している。この測定システムを用いることにより、APDの出力電子数分布を正確に測定でき、線形増倍層を持つAPDの出力電子数分布が従来のAPDとどのように異なるのかを詳細に測定できるようになる。 一方、連携研究者の製作装置故障により、線形増倍層を持つAPDの製作を今年度は行うことができなかった。そのため、連携研究者が以前に製作した2倍の線形増倍層を持つ光検出器の平均増倍率測定を液体窒素温度で行った。その結果、液体窒素温度においても1.8倍の平均増倍率が存在することが分ったが、この検出器は容量が大きすぎたため、低読み出し雑音回路を使った出力電子数分布の測定は行うことはできなかった。しかし、液体窒素温度で線形増倍を確認できたことは大きな進展である。
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