カーボンナノチューブやグラフェン(グラファイトの単一層)等のナノ構造体の電子物性は、機械的な変形、金属との接触、原子・分子の吸着、外部電場等の影響を受けて大きな変化を示す。このような変化はナノ構造体特有の現象であり、通常の物質では考えられないことである。逆にこのような現象を利用すれば、ナノ構造体の電子物性制御が可能となり、新たな工学的応用の可能性が期待される。本研究では、第一原理電子構造計算の手法及び現象論を用いて、金属表面におけるナノ構造体の吸着構造、吸着に伴う電荷移動とドーピング効果について系統的な解析を行った。その結果は以下の通りである。 カーボンナノチューブは、アルミニュウム、貴金属表面にはファン・デル・ワールス的な弱い相互作用で吸着するが(物理吸着)、遷移金属表面とは強く結合する(化学吸着)。グラフェンも同様であるが、5d遷移金属表面でも物理吸着である。このカーボンナノチューブとグラフェンの相違はπ電子の振る舞いの相違に起因する。物理吸着に伴うドーピングの様相は次の通りである。カーボンナノチューブはアルミニュウムおよび銀表面上ではn型にドープされるが、銅及び金表面上ではp型となる。グラフェンも同様であるが、5d遷移金属表面上ではp型となる。このようなドーピングの様相と電荷移動との関係は、新たに構築した現象論を使って理解できる。ナノ構造体の殆どの実験、デバイス応用では、金属基板や電極の使用(金属接触)が避けられない。このため、金属接触の効果を評価しておくことは不可欠であり、本研究の成果はデバイス応用における基本的な指針となることが期待される。
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