本研究では、臨界点を持つ2液相分離系やイオン液体系をはじめとする、大きな揺らぎを持つ流体系での界面のダイナミクスを、特にイオン液体に力点をおいて研究している。具体的には、流体間の界面に生じる表面張力波(リプロン)を動的光散乱法により検出し、その分散関係、すなわち振動数及び減衰定数を波数の関数として求める。 平成20年度は、単体のイオン液体のアニオン・カチオンの種類を系統的に変えることにより、そのドメイン形成能と表面張力・粘性係数との関係を調べ、ドメイン構造の安定性にvan der Waals力が重要な役割を果たしていることを明らかにした。一方、イオン液体表面に生じた電気分極の影響で表面張力に波数依存性が見いだされたとの報告が他のグループによりなされていたが、詳しい測定によりこの効果は無視できるほど小さいことがわかった。 また、温度を変化させることによりイオン液体の粘性係数を系統的に変化させ、粘性による散逸が表面張力波のスペクトル形状に与える影響を調べた。その結果、(1)粘性を小さくしていくと、あるところで表面張力波は過減衰から減衰振動へとその振る舞いを変え、その境目では臨界減衰が観測されること、(2)臨界減衰よりやや過減衰側の領域では、通常の遅い緩和モードに加えて早い緩和モードが観測されること、(3)臨界減衰よりやや減衰振動側の領域では、通常の振動項に加えて、バルクシアモードによる寄与が無視できないほどの大きさになることを示した。これらはイオン液体に限らず様々な高粘性液体の表面波を調べる際に、必ず考慮しなければならない点として重要である。
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