初年度である平成20年度は、定温定圧での分子動力学法によるGay-Berne(GB)モデルを用いた分子形状が回転運動緩和に与える影響について検討した。幾つかの分子形状(L/Dが異なる)モデル分子を用いて、特に、2次の配向時間相関関数から、ネマティックー相等方相(N-I)転移点の等方相側での液晶分子の短時間に起こる回転運動挙動を検討した。調べた系は一定圧力下(P*=5.0)で、分子形状がL/D=2.5〜5.0で、いずれも等方相-ネマティック相転移を起こすことが確認された。2次の分子の回転自己相関関数から見積もった緩和時間は、L/Dが小さい分子の系、つまり分子形状異方性が小さいものほど長くなり、周囲の分子からの相互作用を受けやすい。通常、ネマティック相では2次の配向秩序度(P_2)が多くの物理量を特徴付けているが、ローカルな配向秩序が成長し始めているN-I転移点の等方相側では、このP_2との顕著な相関は見られなかった。また、この分子形状(L/D)と1分子が占める体積である自由体積との関係を調べた結果、N-I転移点を基準とした換算温度で見ると、L/Dの大きい分子の系ほど、その自由体積は大きくなる。この自由体積のL/D依存性は、等方相では2次曲線的な変化をするが、転移点を過ぎネマティック相の領域では次第に直線的な変化へと変わる。さらに、分子回転運動と自由体積変化との相関について、より詳細に検討するため、圧力による影響について検討も開始した。ここでは、種々の条件下でのシミュレーションを行い、その解析のための基礎データを計算した。
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