最終年(3年目)の平成22年度は、Simple cylindrical (Luckhurst-Romano)モデルでの分子動力学シミュレーションを行い、ネマティック-等方相転移点近傍での分子のダイナミクスに与える斥力ポテンシャルの影響について検討した。これまでと同様に2次の相関関数をもとに緩和時間を算出し回転運動を中心に解析を行った。その結果、この系においても実験およびGBモデルと同様に転移点近傍でシャープな不連続な緩和時間の変化が見られた。ここでは圧力変化による自由体積と回転緩和時間の相関、緩和時間と斥力ポテンシャル強度の相関、およびGBモデルとの結果比較と共通性の有無の検討を行った。また分子のダイナミクスと相転移挙動の圧力依存性を調べることによって、同族の化合物ごとに一定値をとるパラメータとして知られている熱力学パラメータΓへの影響についても議論した。このΓに与える斥力の効果は明確に現れたものの、このポテンシャル依存性等の詳細を検討するにはさらなる計算が必要であることが明らかとなった。さらに、光カー効果の実験研究において観測されている2種の緩和時間について、本研究で用いたモデルポテンシャルで検証するため、自己相関関数だけでなく相互相関関数も算出した。本研究課題の中心であり、かつ、多くの実験データも存在するLandau-de Gennes (LdG)緩和時間、および、より高速な緩和時間について温度と密度による特性について議論を行った。その結果、ほとんど温度依存性のないLdG緩和時間よりも高速な緩和過程がいずれの系においても観測され、モデルポテンシャルによるシミュレーションにおいても普遍的現象であることが検証された。
|