研究概要 |
立体構造上は,相同なsrc, FynおよびPI3K由来の3種のSH3のフォールディング過程をクライオストップトフロー法で追跡した。結果は3種がそれぞれ異なった過程を通ることが明らかとなった。src SH3は,我々の方法では追跡できないほど速く(室温なら10μs以内と思われる)できる初期中間体(バースト過程)とその後秒のオーダーでフォールドする過程からなった。Src SH3については,45番目の残基をAlaからGlyに置換した変異体では,酸性領域で,バーストに匹敵するαヘリックスを持つことが明らかになった。したがって,野生型ではβ構造の多いSH3ドメインが,αヘリックスの多い中間体を確かにとることが明らかになった。 一方,Fyn SH3の場合には,バースト過程とそれに続く速い課程およびsrc SH3に匹敵する遅い過程からなっていた。PI3Kでは,バーストの大きさが小さく,遅い過程が観測された。これは,初期中間体から次の中間体への遷移が共にバーストの時間内で起こっているとすると3種が整合的に説明できる。 以上の結果は,相同で立体構造上は違いがほとんど見られない系でも,フォールディングは多形で行われることを示す好例となっていた。これは蛋白質の成立過程を考えるときにきわめて興味深い結果を示唆している。同じ原始蛋白質から進化してきた3種の蛋白質が,1次構造の相同性を保ったままで,立体構造のトポロジーを不変に保ちながら,なおかつそのフォールディング過程は多様な選択をしているということになる。今後他の蛋白質でも似たような現象がないかどうか研究してみる必要があろう。
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