本研究では、我々が開発して来たオーダーN法第一原理計算手法を、水溶液中のDNA(数千から数万原子)の系に適用する。研究の過程で、生体系に対する第一原理計算にもとづいた研究を行うために必要な理論手法を明らかにし、その手法開発も行う。 昨年度の研究で、複数のスナップショット構造間のエネルギー差に対して計算精度を得ることが困難であることが分かったため、平成22年度は局在軌道を設定する方法の変更を行った。同時に、局在軌道の最適化に対する効率的な手法開発も試みた。全エネルギーに関しては、部分系において最適化局在軌道を求めて、それを用いるという方法で誤差の相殺が期待できることが分かった。この手法の範囲内において、オーダーN法第一原理計算によりDNA系に対する全エネルギー、原子に働く力を十分な精度で計算することが可能になった。本研究での大規模第一原理計算によって得られた結果を古典力場の計算と比較することにより、水溶液中のDNA系に対する古典力場の精度と問題点を明らかにすることができた。 一方、生体系に対する第一原理計算ではファンデルワールス相互作用(vdW相互作用)が問題となることが指摘されているが、vdW相互作用を取り入れた交換相関エネルギーの汎関数が最近提案されている。この新しい交換相関エネルギーによるエネルギー補正を計算するプログラムが大阪大学のグループによって作成されている。このプログラムを我々のオーダーN法第一原理計算プログラムと一緒に用いる事によって、スナップショット間のエネルギー差が通常のGGAの計算に比べてどのように変化するかを明らかにした。
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