研究概要 |
31年間(1976-2006年)に観測点が移動していない約800地点のAMeDAS地点について,順位和解析を応用して,強雨(20mm/h以上)の増加傾向の特徴を解析した. 近年(1997-2006年),強雨は九州地方と関東周辺で有意な増加傾向にある.積乱雲の気候学的な解析が豊富な関東周辺に注目すると,強雨が増加した地点は,1)北関東山岳の南に位置するタイプIと2)太平洋沿岸域に位置するタイプIIに大別できる. タイプIの強雨は,総観規模擾乱が接近・通過することのない静穏日の日没後に発生しやすく,日中には海陸風と大規模海陸風が卓越していた.また,解析領域に最も近い館野の高層気象データの解析によると,近年に強雨が観測され日は大気下層の水蒸気量が増加しており,その効果により,大気の潜在不安定が増していた.過去の研究の成果を基に考えると,近年の強雨増加には,積乱雲のエネルギー源である大気下層の水蒸気が増加して潜在不安定が強まるため,強雨の強度・頻度が増加したと解釈することができる. タイプIIの強雨は,低気圧・台風などの総観規模擾乱の接近・通過に伴い,深夜から早朝に発生しやすい傾向があり,強雨発生に関連したメソスケール循環は認められない.また,近傍の浜松の高層気象データの解析によると,近年に強雨が観測された日の潜在不安定は強まっているが,水蒸気変動の寄与は小さい.このように,タイプIとIIで強雨が観測される際の大気環境が大きく異なるため,関東周辺の強雨増加は少なくとも二つのメカニズムが存在すると考えられる.
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