研究概要 |
日没後の豪雨頻度が北関東で増加した期間に,対流圏下層の水蒸気量も増加していた.この日没後に見られる積乱雲活動の活発化と水蒸気量増加との因果関係を考察するために,数値予報モデルを用いて,水蒸気量の変動が積乱雲活動に及ぼす影響を調べた.解析期間は,関東地方で積乱雲活動が活発だった2001年7月13日から8月31日までの47日間とした.大気の初期条件と境界条件はNCEP final再解析データを用いて,格子間隔は個々の積乱雲を表現できるように3kmとした.再解析データの水蒸気量を用いた対照実験と地上から200hPaまでの水蒸気量を10%増加させた湿潤実験の積乱雲活動を比較すると,時間帯により積乱雲が強化される特徴が異なっていた. 1.日中(10-14時)の特徴:標高2km以上の山岳域で,20mm/h以下の降水に伴う降水量は有意に増加したが,40mm/h以上の強い降水に伴う降水量に大きな変化はなかった.水蒸気量の増加に伴い,熱的局地循環によって山岳域へ輸送される水蒸気も増え,降水量が増加したと考えられる. 2)夜間(22-26時)の特徴:標高に関係なく,積乱雲に伴う強い降水の頻度が増加した.強雨の増加には2つのパターンが見られる.1つは前線などに伴う積乱雲の強化であり,降水量が増加した領域はライン状を呈する.もう1つは,北関東山岳域の南東域で起きる積乱雲の強化である.この積乱雲の強化は,熱的局地循環が発達した日の日没後に,大規模海陸風が地形収束する領域で起きている.これらの特徴は,31年間の1時間雨量データの解析から指摘された特徴と一致している.水蒸気量を増加させることで,北関東における近年の豪雨増加の特徴を再現できた可能性がある.
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