研究概要 |
本研究では,アンサンブル予報での初期摂動作成法の一種であるBGM(Breeding of Growing Mode)法を数値予報モデルなど適用して,熱帯大気循環に伴う惑星規模の有限振幅の不安定モードを抽出し,その時空間構造や基本場依存性を明らかにすることや,熱帯域の擾乱が中高緯度大気循環に及ぼす影響を評価することを目的としている. まず,今年度は,Madden-Julian Oscillation (MJO)が比較的活発であった2003年11月から2004年2月の期間について昨年度実施した気象庁1ヶ月予報モデルを用いたアンサンブル予報実験結果を解析し,熱帯域初期擾乱の成長率とMJOの活動度や位相との関連について解析を行った.その結果,MJOの振幅や位相と熱帯域初期擾乱の成長率との間に統計的に有意な関係を見いだすことはできなかった. 次に,1982年~2001年の20年間の夏季(6月~8月)について気象庁で実施された1ヶ月アンサンブル予報実験結果を用いて,熱帯域の循環偏差が,夏季の日本域の天候に大きな影響を与える大気循環変動パターンであるPJ (Pacific-Japan)パターンの形成時の予測可能性に与える影響について解析を行った.その結果,PJパターンに伴うフィリピン沖での850-hPa高度場偏差の予測誤差の大きさは、熱帯域の卓越循環変動であるMJOの位相と有意に関連していることが示された.すなわち,MJOに伴う北アフリカからインド洋の領域の大気下層での発散(収束)偏差と,北西太平洋から中央太平洋の領域の大気下層で収束(発散)偏差が存在するとき,フィリピン沖での850-hPa高度場偏差の予測誤差は有意に小さくなる.また,MJOに似た熱帯域における速度ポテンシャル場の東西波数1の構造は,亜熱帯北西太平洋域での850-hPa高度場の予測誤差と統計的に有意な関連を持つことが明らかになった.
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