研究概要 |
対流と傾圧不安定の相互作用に注目した高緯度海域における底・深層水形成過程の物理機構を明らかにするため、傾圧流が存在する理想化された背景場に対して一様な海面冷却を加え続ける実験を、3次元非静水圧方程式に基づく数値モデルを用いて行った。傾圧的に安定な流れが、海面冷却にともなう対流により混合層が形成することによって不安定化し、高・低気圧性渦を生成する。なかでも高気圧性渦の性質は、ラブラドル海やグリーンランド海でしばしば観測されるsubmesoscale coherent vortex(SCV)の性質に一致しており、対流と傾圧不安定の相互作用がSCVの生成機構として働く可能性が示された。また、これらの渦に伴う下層への海水輸送量は基本場の等密度面勾配にほぼ比例することが明らかになった。以上の結果を受けて、海面冷却下で発生・発達する傾圧不安定による輸送過程をいわゆるGent-McWilliamsのパラメタリゼーション(以下、GMスキーム,Gent and McWilliams(1991))によってどの程度再現されるかを調べた。基本場の成層が強い場合は、混合層内および深層における水温の鉛直分布が良好に再現されるのに対し、成層の弱い場合には、底・深層における水温分布が十分には再現されない。GMスキームでは考慮されていない非断熱過程(対流)が輸送過程に対して本質的な役割を果すと考えられる。これを考慮するためには、極域での対流が持つ他海域とは異なる特性を明らかにする必要があることを確認した。
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