大気海洋結合モデルによる大規模山岳の上昇感度実験データからモンスーンと海洋環境季節変動に関するモデルデータセットを整備した。山岳高度が現在の状態のモデルデータを衛星観測降水データ、大気再解析データ、世界海洋データベース、海洋観測船データ、衛星観測海氷データと比較した結果、モデルにおけるモンスーン及び海流・海面水温・海氷といった海洋環境の再現性が良好であることが分かった。 大規模山岳が上昇するにつれて強化されるモンスーンによる、風向風速、気温、降水量の変化と、海水温、塩分といった海洋環境の季節変動の変化について解析した結果、多雨域が降水量を増してアジア大陸の内陸部に進入していくとともに、大河川からの流出水がより多く流入する南シナ海、黄海、東シナ海で低塩化する一方、その水の供給源である蒸発が強められるアラビア海で高塩化するということが分かった。その結果、海洋においてアジア大陸の縁辺海の河口と沿岸域で塩分コントラストが形成されることが明らかとなった。これらのことは、過去の山岳上昇によるモンスーンと海洋環境の変化が水循環の変化を引起し、陸上及び海洋の生態系に大きな影響を与えてきたであろうということを示唆しており、テクトニクスの変化と気候変動及び生物進化の連動関係を知る上で重要な知見を得た。 また、高解像度大気モデルによる山岳の上昇感度実験データセットを整備し、急峻なヒマラヤ山脈によるアジア大陸での降水プロセスの変化を調べた結果、解像度が上がるにつれて地形性降水が明瞭となり、モンスーンにともなう沿岸域での降水変化の水平コントラストが大きくなることが明らかとなった。このことは南シナ海、黄海、東シナ海での低塩化とアラビア海での高塩化のコントラストもさらに大きくなる可能性があることを示唆しており、古気候・古海洋の復元結果と詳細に比較検討する意義がある。
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