研究概要 |
観測の不足から生じる熱帯低気圧の不確定性に関し,観測データの同化についての研究を行った.気象庁では,衛星観測等から推定したベストトラックデータを作成している.このデータに含まれる台風や熱帯低気圧の中心気圧は,周囲の値に比べて極端に低いことが多い.データ同化に用いる大気大循環モデルの解像度では,このような極端な値を表現することができない.台風中心気圧を同化しようとしても,異常な値として判断されて不採用となることがある.観測としては真値に近くても,大気大循環モデルの格子サイズの平均値としては,不正確である可能性がある.そこで,中心気圧を台風の形状等から修正する手法を考案し,データ同化実験を行った.この実験により,台風の位置や中心気圧を改善できることがあることを確認した. 次に積雲対流に関する不確定性については,熱帯低気圧のシミュレーションでどのように取り扱われてきたかレビューを行い,その一部を榎本(2009)にまとめた.多くの大気大循環モデルでは,積雲対流には大胆な仮定や経験的なパラメタ設定を含むパラメタリゼーションが用いられている.積雲対流は確率的なものであると見なし,積雲対流をパラメタライズした台風モデル(Ooyama,1969)は本質を良く捉えたものである.積雲対流にバラメタリゼーションを用いている大気大循環モデルに見られる熱帯低気圧は,基本的にはOoyama(1969)のモデルと同様なメカニズムで発生・発達している.
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