研究概要 |
インドプレートとユーラシアプレートの境界に産するマラカンド超苦鉄質岩体(パキスタン)について,その鉱物化学組成に基づいて起源の検討をおこなった。マラカンド超苦鉄質岩体は,ハルツバーガイトとダナイトを主体とし,ダナイトが卓越する部分には,多数のクロミタイト鉱床を胚胎する。また,岩脈状にウェブステライトやウェールライト,ハンレイ岩などが分布する。岩体を構成する岩石中の鉱物化学組成は,場所や岩種により多様性が認められる。カンラン石のFo値は84~98で,クロミタイトで最も高く,ウェールライトで最も低い。ハルツバーガイトのFo値は91~92である。ダナイトは91~94のより幅広いFo値を示す。スピネルはCr#(Cr/(Cr+Al))が0.4~0.9の幅広い組成で特徴付けられる。スピネルの化学組成の多様性はカンラン石と同様に岩体内の場所と岩種に強く依存している。ハルツバーガイトのCr#は,場所により0.4~0.5を示したり,0.7~0.75を示したりする。ダナイトは0.4~0.9のより幅広い組成を示す。クロミタイト中のスピネルは場所によりCr#が0.4~0.5および0.6~0.7の異なる組成幅を示す。スピネルに包含される角閃石は,パーガサイト,マグネシオホルンブレンドなどのCa角閃石である。以上の結果に基づくと,マラカンド超苦鉄質岩体を構成する岩石は,メルト成分に非常に枯渇した溶け残りマントルを主体とすることが推定される。ハルツバーガイト中には,単斜輝石がほとんど含まれておらず,カンラン石のFo値は海嶺下のペリドタイトの値と比較して高く,また,スピネルのCr#も高い。岩体中にしばしば認められるクロミタイト鉱床をつくるスピネルには含水鉱物が包有される。これらのことから,マラカンド超苦鉄質岩体は,島弧下の最上部マントル~地殻漸移帯に相当することが想定される。
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