中央海嶺での拡大様式や海嶺の構造は、拡大速度とメルト供給のバランスで決まっており、メルト供給量はマントルソースの温度や組成を反映していると考えられる。従って、拡大速度がほぼ等しい中央海嶺での拡大様式・海嶺の構造は、マントルソースの温度・組成条件の違いの結果であると推測される。この仮説のもと南西インド洋海嶺の東経34度から40度の海域でドレッジによって採取された玄武岩類・カンラン岩類の分析を行った。平成22年度は、平成20年度に採取された岩石類の高精度精密分析および平成21年度に採取された岩石の主成分元素および微量元素組成分析を行った。 調査海域西端の断裂帯から採取されたカンラン岩中およびそれに由来するスピネルのOs同位体比の測定結果は著しくOsに枯渇した組成を示した。この組成から計算されるマグマ抽出年代は約10億年を示し、単斜輝石の微量元素組成と併せて考えると、約10億年前にマグマを形成した後、交代作用やメルトーマントル相互作用を経ないまま長期間に渡ってアセノスフェアマントルとして存在してきたマントルカンラン岩であることが推察される。 玄武岩類の主成分元素組成から部分融解度を推定し、その値と微量元素組成からマントルの微量元素組成の推定を行った。その結果、海底地形に応じて異なるように見える組成幅も軽希土類組成で約2倍の濃度の違いしかないことが判明した。新たなモデル計算に基づくマグマ形成の温度圧力条件はほぼ等しいことを踏まえると、マグマ形成に関与するエンリッチした(融けやすい)物質の含有量が場所毎にわずかに異なっていて、その違いが部分溶融度、ひいてはマグマ組成、海底地形に反映されていると考えられる。 これらの結果は、超低速拡大海嶺ではマグマ形成に関与するマントルの領域が限られた範囲であり、そこでの不均質性が中央海嶺玄武岩組成に強く影響を及ぼしているという仮説を支持するものである。
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