化石、現生の頭足類の比較形態学的研究により、頭足類の進化について考察した。頭足類の中で鞘形類は殻体の退化が著しいため、化石記録が不完全で、その進化史や系統関係については不明な点が多かった。棚部らは、北太平洋の北海道やカナダ、バンクーバー島に分布する海成上部白亜系からツツイカ類、コウモリダコ類、ヒゲダコ類に属する鞘形類の顎板化石を報告し、3新属5新種を提唱した。これらの鞘形類の顎化石はいずれも大型で、現生鞘形類における顎サイズと体長の関係から推定すると、現生ダイオウイカ(体長約5m)に匹敵する大型の種を含むことがわかった。白亜紀の北西太平洋では外殻性の体制を持ったアンモノイド類やオウムガイ類のほかに、現代型の鞘形類がすでに繁栄を遂げていたことが明らかになった。白亜紀末のアンモノイド類の大量絶滅の要因については諸説あるが、検証可能な仮説はきわめて少ない。これまでのアンモノイド類の比較発生学的研究から、アンモノイド類は小卵多産型(r戦略型)の繁殖戦略を持っていたことや、艀化後の幼体は1mmにも満たないことから小型の植物・動物プランクトンを餌に発育したと考えられる。
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