従来化学合成群集の報告の乏しい北海道道東の調査と新潟県上越市付近の調査を行った。また、これまでに採集した北海道北部幌加内周辺の"化学合成群集"を再検討した。その結果、北海道道東では大曲層、縫別層、ヌピナイ層から化学合成群集を認めた。当初目的の一部としていた根室層群や活平層中からは化学合成群集は採集できなかった。また、北海道幌加内の"化学合成群集"は同位体分析の結果、化学合成群集ではなく、単に還元的な環境下に生息した群集であることも明らかとなった。上越市北黒岩の小萱層の岩体について同位体の検討なども行った結果、冷湧水群集である事を明らかにした。 以上のうち、個体数が30個体以上得られたヌピナイ層と小萱層の群集構造を明らかにし、従来知られてきた化学合成群集の群集構造と比較した。ヌピナイ層の冷湧水群集は4種の貝化石からなる。ほぼインファウナから構成され、同層から報告されている鯨骨群集(H'=2.22)より種多様性が低い(H'=0.52)。この違いは、均等度が冷湧水群集では、J'=0.26と鯨骨群集のJ'=0.86に比べ低いためである。一方、小萱層の冷湧水群集は6種の貝化石からなり、長野県赤怒田の別所層の群集に種構成が類似すること、南側岩体でインファウナ、北側岩体でエピファウナが卓越していることなどが明らかとなった。また、望来層や別所層の群集に比べ、種の均等度がJ'=0.57-0.91と高いことも明らかとなった。
|