研究課題
前年度の成果を踏まえて日本の冷湧水群集と鯨骨群集の群集構造を検討すべく、研究計画に沿い北海道釧路炭田の漸新統縫別層、中新統ヌピナイ層、知床半島の中新統ルシャ層および道北小平町の始新統達布層の貝化石群を採集し検討した。また、その際に縫別層より日本最古のシンカイヒバリガイ類化石を発見し、東北大学に貯蔵されている標本と比較検討を行った。上記の群集を含め、白亜紀から鮮新世にかけての25群集の群集構造を検討した。その結果、以下のことが明らかとなった。1.化学合成群集中の種数は3~9種で構成されている場合が多く、15種からなる群集が今のところ最多である。2.群集の種多様度には白亜紀から鮮新世にかけての方向性を持った時代的な変化傾向は見られない。3.Amano et al.(2010)でも指摘したように、生息深度による群集構造の違いが見られる。すなわち、種の多様度は下部浅海域の群集で高く、中部漸深海域の群集で相対的に低い。一方、中部漸深海域の群集では相対的に均等度が高い。4.種の多様度が高い群集中には、多歯の二枚貝や肉食者・腐肉食者の個体数比が高く、化学合成群集特徴種の個体数比は低い。3,4から、深海域では捕食者が生息しにくく、冷湧水域はオアシスのように限定された面積を持つことから化学合成種の競争が卓越し、均等度は高くなる。より浅海域では捕食者が周囲の環境から加わることにより、この競争が緩和され、周囲から堆積物食者や腐肉食者が入り込みやすくなり、種の多様性が増加し、均等度が減少すると考察される。もともと深海域に生息するために、深度の違いには注目されていなかった化学合成群集への深度の影響が明らかとなりつつある。
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