これまでの成果を踏まえて日本の冷湧水群集と鯨骨群集の群集構造を総括すべく、青森県および茨城県の中新統、和歌山県の中新統および漸新統の補足的な調査と採集を行い、国立科学博物館の標本と比較検討を行った。 上記の群集を含め、白亜紀から鮮新世にかけての29群集の群集構造を検討した。その結果、以下のことが明らかとなった。種数は1群集中に2~15種が認められた。これは、これまで認められている現生の冷湧水群集や鯨骨群集中の軟体動物の2~13種とほぼ等しい。また、種多様度と均等度の関係については、古水深による違いが明らかとなった。すなわち、下部浅海域の群集は比較的多様度が高く、相対的に均等度は低い。一方、中部漸深海域の群集の多様度は下部浅海域の群集ほど高くなく、均等度は高い。また、多様度と化学合成菌共生種の個体数比の関係について、多様度の高い群集の個体数比は低い傾向にある。化学合成群集の生息範囲は一定の面積に限定されている。捕食者が生息しなかった中部漸深海域では、化学合成菌共生種が密集し、競争状態にあるため、周囲からの種の侵入を妨げた。その結果、化学合成菌共生種の個体数比は高く、種の多様度は下部浅海域に比べ高くなく、均等度は高くなったと思われる。一方、下部浅海域では、肉食性巻貝が生息し、化学合成菌共生種を捕食していたことから、周囲からの堆積物食者などが侵入しやすかったと思われる。このため、化学合成菌共生種の個体数比は低く、多様度は高く、均等度は相対的に低くなったと考えられる。
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