多様な岩石が混在する地殻物質が造山帯深部の高温高圧条件下で部分融解する時の異種岩石間の相互作用について、南極、昭和基地の南方の地域のものをはじめ、スリランカやカナダ、チェコ、南アフリカ等の地域の高温広域変成岩類(グラニュライト)を電子顕微鏡を駆使して再調査した。その結果、泥質~砂質および中性のグラニュライト中のザクロ石結晶中に出現する1mm以下の大きさの包有物に、従来誰も想像さえもしなかった次のような事実が明らかになった:(1)マイクロ結晶質~クリプト結晶で広義の花崗岩組成のものがあり、(2)その中に自形~骸晶~樹枝状~球晶状の石英「斑晶」が出現することがある、(3)基質部では石英と長石(斜長石かアルカリ長石、あるいは両者)はグラノフィリックな連晶していることが多い、(4)包有物を含むザクロ石の外部、すなわちマトリックスには珪線石が多量に出現するか、あるいはまったく出現しない場合でも、紅柱石が黒雲母とともに出現することがある、(5)斜方輝石が出現することがある、(6)包有物とそれを含むザクロ石とが反応したことを示すように、包有物の周囲のザクロ石にMn、Fe、Mgに関する組成累帯構造構造が見られる、等々。これらのことから、大陸どうしの衝突型の造山帯の深部で、十分に高温に達して岩石の部分融解がおこり、それによって形成されたメルトの一部がザクロ石結晶中に取り込まれたが、その後の上昇期のある段階に、紅柱石+黒雲母や斜方輝石が生じるような比較的低圧で高温の条件下で、「大過冷却」状態で固結したことが示唆される。このような包有物の形成は、これまでの比較的ゆっくりした岩石移動速度を前提にしたテクトニックモデルでは説明が困難あるいは不可能である。一方で、最近、現在進行中の大陸衝突型造山帯であるヒマラヤの研究から提案されている「中部地殻内での高温岩石のチャネル流動」に対応する可能性がある。
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